zakkan 甚佐紅(ざっかん じんざもみ)

日々の雑感を綴ってみたい・・・。

こけら葺きとこけら落とし。

我が家の北側の軒です。

さても。
「板葺き」と「こけら葺き」は、地方によって言い方が違うだけで、同じ仕様でした。


こけらとは「木材を削るときにできる木の細片、木くず」と広辞苑にあります。
神社仏閣の檜皮葺きを「こけら葺き」と言ってしまうには、あまりに失礼かとも思うのですが、基本は、木材を大切にする日本人の「もったいない精神」の現れるところなのだと
思います。


そこでふと、二十数年前訪れたイギリスのコッツウォルズの街並みを思い出しました。
500年以上前の建物が残る古いイングランドの田舎町。
鉄道計画から外れたので、そのまま時代が止まってしまい、今や観光地となった村。
その家々の屋根は、茅葺きだったり、もしかして板葺きもあったような。
と思っていま、Wikipediaを見たら。


ペラペラのまるで、それこそ「こけら板」をずらしながら重ねたような屋根の材料は、はい、石でした。
岩を薄い板にしてしまう技術、なかなかと思った瞬間、なんだ、柔らかいのよね、ライムストーンと呼ばれる石灰岩。
たしか、炭酸が多く含まれるチョークって、イギリスの特産ですもの。


セブンシスターズは、ほんとうに素晴らしい眺めでしたけれど。
ドーバー海峡に面した白く美しい岸壁。
石灰岩が年々削られて、やがて丘の上の家はドボンと海峡に落ちてしまうのだとか。


すみません、話がどこかへ行ってしまいました。


つまりはこの信州の山里。
四年に一度、屋根板を張替えながら、千年を暮らしてきたのです。つい、六十年くらい前まで。


石の国は石で。木の国は木で。


そうでした、もう一つのお題「こけら落とし」。


新しい劇場ができ上がり、初めての興行を「杮落し」と言いますが。
その「杮・こけら」と「柿・かき」は当然同じ字だと思っていました。故事来歴、なにかがあってのことだろうと。
ところが、漢和辞典を見たら、別字なんですって。
もう次から次に新しいトリビアの出現・・・。


秋、美味しく頂く柿は、木へんに市。
市はナベフタに巾ですが、なんと、杮(こけら)は、木へんに一(いち)と巾を縦棒で貫いたもの。
「こけらおとし」とは、劇場の新築工事の後わりに、屋根などの木屑を払い落としたところから、初興行のこと、と広辞苑に書いてありました。


七十を過ぎても知らないことだらけ。


愉しくあちらこちら見渡しながら。
毎日、着尺を前に、ジャケットやブラウスの柄行をうんうん唸り考えながら。


時は過ぎていくのでしょう。


ウクライナの三万人。
ガザの三万人。


怖ろしい死者の数を耳にしても、私にはどうすることもできないのですから。